人はなぜ資源を独占したり他者を奴隷にしようとするのか【不安】

ヒトの中にはなぜ、一生かかっても使い切れないほどの膨大な資源(お金、土地など)を独占しようとする者が現れるのか?

ヒトの中にはなぜ、他者を意のままに支配することを試みるものが後をたたないのか?

このテーマについて統一的な見解を見つけることは難しいですが、今回の記事ではこれらについて私見を述べたいと思います。

根底にあるのは「不安」

ヒトが一生かかっても使い切れないほどの財をため込んだり、他者を奴隷として支配しようとしたりといった不毛な衝動に駆り立てるもの、それは、根底にあるものは「不安」であると私は読み解きます。

1.心理学的視点:不安と自己防衛

フロイトやユングなどの心理学者の考えでは、不安は人間行動の根底にあるものとされています。

不確実性の恐怖

人間は未来がどうなるかわからないという不安を常に抱えています。資源を独占することや他者を支配することは、この不安を軽減するための防衛機制として解釈されます。

自己価値の確認

支配や独占は、自分が重要である、または価値があると感じるための手段にもなります。これは、他者から認められたいという根源的な欲求にも結びついています。これは言い方を変えれば【依存」といえます。

たとえば大企業の経営者は多くの雇用を行うことで従業員から「依存」されている存在であると言えますが、逆に経営者もまた従業員に依存している相互依存関係にあるということです。

2.進化心理学の観点

進化心理学では、資源を独占しようとしたり他者を支配しようとする行動は、生存と繁殖の成功を高めるための戦略として説明されます。

資源独占と飢えへの恐怖

資源は生存の基盤です。食料、水、住居、配偶者などを独占することで、個体やその子孫の生存率を高めることができます。これは、不安というよりも、生存競争の結果として説明されることが多いようです。しかしこれについても、根底にあるものは「飢えや寒さへの不安」だと私は解釈します。

他者支配

個人が群れや社会の中で上位に立つことで、より多くの資源や繁殖機会を得ることができます。このような行動は、ヒトの進化的には利益をもたらしてきた側面もあることは否めません。

    3. 社会的・文化的要因

    人間社会には階層構造(階級)や競争が存在し、それが支配欲や独占欲を強化することがあります。

    比較による不安

    社会における他者との比較が、資源や権力をめぐる競争を煽る要因となります。

    文化的価値観

    一部の文化や経済システム(例えば資本主義)は、個人の成功や富の蓄積を評価するため、競争や独占を助長します。

      4. 哲学的観点

      実存的不安(キルケゴール、ハイデガー)

      人間は自分の有限性や死の不可避性を知っているため、常に不安を感じます。この不安から逃れるために、物質的なものや権力を追い求めるという解釈もあります。

      権力意志(ニーチェ)

      ニーチェは、人間には「生の肯定」としての権力意志があると述べています。他者を支配したり、資源を独占したりすることは、この権力意志の表現と考えられます。

      人間が不安を完全に克服するには不老不死が必要

      不安は、未知への恐れ、比較から生じる劣等感、そして存在そのものへの不安に由来するものです。それを補償するために、物質的・社会的な優位性を求める行動にヒトを駆り立てるのだと思います。

      では、人間は不安を完全に克服することができるのか?

      私は、人間が不安を完全に克服するには、科学の進歩によって不老不死が実現される必要があると考えます。不老不死が実現されると、死の恐怖や時間の制約からくる不安が大幅に軽減されるはずです。

      生存の不安の消滅

      人類はこれまで、死という不可避な現実から生じる不安に囚われてきました。不老不死の実現は、人生の有限性に由来する焦燥感を取り除くことができます。

      新たな不安の出現

      ただし、不老不死は新たな不安をもたらす可能性もあります。例えば、無限の時間をどう生きるのか、精神的な倦怠感や社会資源の分配問題にどう対応するのか、といった課題が浮上するでしょう。

      しかしいずれにせよ、少なくとも私が生きている限り人類が不老不死を手にすることはないでしょう。

      ユニバーサルベーシックインカム

      しかし不老不死の実現を待たずとも、すべての人に生存を保証する「ユニバーサルベーシックインカム」が地球規模で実現すれば、ヒトが不安から不毛な衝動に突き動かされる状況は大きく変化すると思われます。


      1.ユニバーサルベーシックインカム(UBI)と不安の軽減

      UBIは、生存に必要な最低限の資源を保証することで、多くの不安を解消するポテンシャルを持っています。

      利己的な欲望の抑制

      生存が保証されれば、資源独占や支配欲といった利己的な行動が減少する可能性があります。これにより、不安に駆られて行動する人間の性質が変化し、より平等で平和な社会が実現するかもしれません。

      新しい価値観の創出

      生存や競争が主たる目標ではなくなることで、人々は自己実現や共感といった新しい価値観に重きを置くようになるでしょう。

      経済的不安の解消

      すべての人に生活費が支給されることで、食料や住居といった基本的なニーズが満たされ、競争や搾取が減少する可能性があります。これにより、物質的な欠乏に由来する不安が軽減されるでしょう。

      精神的安定の向上

      経済的基盤が安定することで、人々はより創造的で自由な活動に集中できるようになります。他者を支配したり、資源を独占する必要性が薄れ、より協調的な社会が形成されるかもしれません。

      地球規模の挑戦

      UBIを地球規模で実現するには、国家間の利害調整や富の分配の問題を解決する必要があります。これには、テクノロジーや政治的意志、文化的変化が不可欠です。


      4. UBIの課題と注意点

      人間の心理と進化的背景

      生存の不安が消えたとしても、競争や比較からくる不安は完全には消えない可能性があります。進化的に備わった人間の性質を変えるのは容易ではありません。

      不安のシフト

      基本的なニーズが満たされたとしても、新しい不安(例: 自己実現、社会的承認の不足)が生じることは避けられません。また、不安そのものが人間の創造性や成長の原動力であるという意見もあるでしょう。


        おわりに

        遠い未来でなければ実現できない不老不死を待たずとも、UBIは、人間の不安を軽減し、より安定した社会を実現するための有望な手段です。

        ただし、それらが実現されたとしても、「不安」が完全に消えるわけではなく、新たな課題が生まれる可能性は否めません。重要なのは、社会制度や技術の進歩と並行して、人間の心理や価値観の進化にも目を向けることです。

        科学は「現代の宗教」と揶揄されます。特に近代以降は自然科学だけが重んじられ、哲学や倫理学などが軽視されてきました。しかし人間が不安を克服する鍵は社会システムなどの外的な条件だけでなく、内面的な成熟にもあるとするならば、これら領域が人間にもたらす価値も見直される必要があると感じています。

        最後までお読み頂きありがとうございました。

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