私はいわゆる就職氷河期世代(以下、氷河期世代)なわけですが、氷河期世代の悲劇を考える際、バブル世代や団塊世代といった上の世代の存在が大きな影響を与えたことは見逃せないと私は考えます。今回の記事では、氷河期世代が上の世代からどのような影響を受けたのか、またそのことがどのような結果をもたらしたのかについて考察してみます。
1.バブル世代と楽観主義の影響
バブル世代は、就職市場が最も活況だった時期に社会に出た世代です。彼らの多くは、「普通に働いていれば誰でも豊かになれる」という成功体験を持ち、その価値観を後の世代にも共有したといえます。
いっぽう、就職氷河期世代が社会に出た時期はバブル崩壊直後でした。彼らが直面した現実は、バブル世代の価値観がもはや全くと言っていいほど通用しない極めて厳しいものでした。
それでもなお、バブル世代から与えられた楽観主義的なメッセージに固執してしまい、「今は悪い状況だが、そのうち良くなるだろう。そのうちなんとかなるだろう」という期待感を抱かされ、事態の深刻さを見誤ったといえるのではないでしょうか。
2.団塊世代と無力感の伝播
団塊世代は、日本の高度経済成長期に社会の中核を担った世代ですが、その過程で「大人に逆らう」経験を持つことも多かったと言われます。学生運動や労働争議の中で、多くの団塊世代が「大人に逆らった/物申したが叩き潰された」挫折感や無力感を味わいました。
その結果、「上に逆らっても仕方がない」という考えが広がり、次の世代である就職氷河期世代にも戦う気風を育てることが難しかったのではないでしょうか。
このような世代間の無力感の伝播が、氷河期世代が自ら置かれた状況の危機性について声を上げにくい状況を作り出した要因の一つと考えられます。
3.就職氷河期世代から声が上がらなかった理由
就職氷河期世代が声を上げにくかった理由は、もちろん上の世代の影響だけではありません。日本社会特有の構造的な問題も無視できません。
新卒一括採用
現在でも多数の批判的意見が存在しながら継続されている新卒一括採用制度ですが、この制度が固定化されてしまった結果、一度就職に失敗した人が再チャレンジすることを極めて困難にしています。
終身雇用と年功序列
氷河期世代が就職適齢期を迎えた当時は、まだ終身雇用と年功序列が当たり前だったため、逆説的に若者の価値が低く見積もられやすい環境にあったといえます。これはすでに述べた「そのうちなんとかなるだろう」と判断されてしまった状況に類似性があると思います。
経済状況の悪化
これは述べるまでもないことですが、バブル崩壊後にもたらされた経済状況の悪化により、多くの企業が従業員の新規採用を劇的に減らしています。
これらの要因が絡み合い、氷河期世代は一方的に厳しい現実に放り込まれ、社会に適応するための選択肢を奪われていったのです。
4.多面的な視点が必要
このように、氷河期世代の悲劇の原因は、バブル世代や団塊世代といった上の世代の影響を受けつつ、日本社会全体の構造的な問題に大きく影響されてきた結果であると言えます。ただし、この問題を世代間の力学だけで説明しようとすると、見落としてしまう視点もあります。
主体性の欠如
氷河期世代自身が社会の状況を改善しようと主体的に活動したかどうかの議論も必要です。ただし、この議論が「自己責任論」に陥らないよう注意が必要です。
団塊世代の多様な影響
団塊世代は後の世代に「逆らっても無駄という無力感を伝播した」という側面がある一方で、学生運動や労働運動を通じて「戦う気風」を示した世代でもあります。この点をどう評価するかは重要です。
社会全体の責任
新卒一括採用や終身雇用制度といった構造的要因の徹底的な分析と改善を怠る限り、氷河期世代が落とし込まれたような悲劇は何度でも繰り返されるでしょう。社会全体でこの問題に取り組むことが求められています。
5.何よりもまず受容と共感が求められている
氷河期世代の人々が抱える怒り・悲しみの根源は 「受容と共感すらされていないこと」 にあると思います。
日本人が被った悲劇に対する受容と共感を広く国民に示せる存在と言えば、やはり天皇ではないでしょうか。
ですので私は、天皇から氷河期世代に向けて言葉を頂くのはどうだろう、と考えています。
「就職氷河期世代の皆さまが歩んできた困難な状況に心を痛めております。社会全体がその努力と苦しみに対して深い理解を持ち、共に支え合うことが大切だと考えています」
といったような、受容と共感を示す言葉です。
おわりに
就職氷河期世代が直面した困難は、単なる個人の問題ではなく、世代間の力学と日本社会全体の構造的な問題が絡み合った結果です。しかし、バブル世代や団塊世代の影響は確かに大きかったものの、それだけでは説明しきれない複雑な背景があります。
日本社会が同じような悲劇を繰り返さないためには、世代間の相互理解を深めるとともに、構造的な問題を一つひとつ解決していくことが不可欠です。
最後までお読み頂きありがとうございました。