現在の日本は事実上の「国民総労働制」であり、「働かない自由」は認められていません。いっぽうで劣悪な労働環境に絶望している人が数多くいるのにもかかわらず、ブラック企業を根絶するための有効な手立ては打てていません。
この背景には、良好な労働環境や福利厚生を提供する「ホワイト企業」が、ブラック企業にブラックな仕事を委託することでホワイトたり得ているという構造があります。
私は、全ての人に生活と生存を保証し、あらゆる人に「働かない自由」をもたらすベーシックインカム(以下、BI)の実現を推奨しています。
しかし、この主張に対して否定的な意見を受け取ることも少なくありません。こうした反発をする人の中には、現在の社会から恩恵を受けており「変化など必要ない」境遇にある恵まれた人もいるかと思います。
しかし、これはあくまで私の肌感ですが、「現状に絶望しており、人生において何度も期待を裏切られてきたため、誰も信用できない状態にある」という人々も相当数、含まれていると感じています。
同じく社会に問題意識を持っている味方同士で争い合うのは不幸なことです。今回の記事では、こうした状況を踏まえ、「味方から刺される」ことなく希望を発信し続けるうえで、心がけるべき事柄をシェアしたいと思います。
希望の拒絶
極限状況に置かれた人々は、何度も裏切られたり、期待が裏切られる経験を積むうちに、
- 「希望を持つことは苦しみを増すだけだ」
- 「何度も裏切られた!もうイヤだ!」
- 「希望をもたせようとする奴は誰も信用できない」
などと考えるようになります。そのため、たとえ真実であっても、希望を与える発言に対して「嘘をつくな」と攻撃的になることがあります。
この現象については、ナチス・ドイツによるホロコーストを生き延びたユダヤ人の精神科医・心理学者であるヴィクトール・フランクルも著書の中で同様の述懐をしています。絶望しきった人々は「もうすぐ自由になる」と聞かされてもそれを信じることができず、逆に「デマを流すな!」などと反発してしまうのです。
この心理的働きを言語化したものとして他に「捕虜症候群」や「負の予測バイアス」「ストックホルム症候群」などの概念があります。
どのように希望を伝えていけばいいのか
「希望」を押し付けない
希望を押し付けないこと。これは最も大切なことだと思います。とにかく、他人に自分の意見を押し付けないこと、他人の自主性や主体性を尊重するということです。
人は絶望の中では「希望を信じること」自体が苦痛になることがあります。
「きっと良くなる!」と一方的に伝えるのではなく、相手の気持ちに寄り添いながら、小さな可能性を示すことが重要です。
質問も有効
「もしこの状況が変わるとしたら、どんな方法があり得ると思う?」と相手に問うことも有効です。これは相手に考える余地を与えるということです。
無理に多数を説得しようとしない
絶望の中にいる人々全員にゴリ押しで希望を持たせようとすると、かえって反発が生まれることがあります。まずは少数の仲間と共感を深め、その輪を少しずつ広げていくのが良い結果を生むことも多いのです。
無理に多数を説得しようとせず、
- 「あなたはどう思う?」
- 「少しでも可能性があるとしたら、試してみないか?」
このような提案を行ってみる、ということです。
人は「みんなが信じていること」には共鳴しやすいので、まずは極力、小さなグループから説得を始めることで、周囲の反発を減らせる可能性が高まります。
敵を作らない言葉を選ぶ
「希望を語る者は敵」と受け止められないようにするために、言葉の選び方に注意すること。「お前は間違っている」などは相手を刺激してしまい敵意を抱かせる良くない例です。また、
「お前らは絶望しすぎだ!俺の言うことを聞け!」
と言うのもまた間違いだということです。代わりに、
「この状況は本当に厳しい。でも、どうにか乗り越える方法がないか、一緒に考えたい。」
と提案すること。「希望 vs 絶望」の対立構造を作らず、「共に考える」というスタンスを取ることが大切です。
「仲間を見捨てない」というメッセージを伝える
絶望している人々は、
- 「どうせ俺たちは見捨てられる」
- 「お前もどうせ自分だけが助かろうとしてるんだろう」
という感覚を強く持っています。
「私は決してあなたを置いていかない」というメッセージを根気よく伝えることが大切です。それは「私はあなたと一緒にいる。どんなことがあっても、一緒に考える。」と伝えることです。
ただ希望を語るのではなく、「あなたと共にいる」ことを示す言葉が安心感を生み、不信感を克服する強さを生むのです。
具体的な小さな行動に落とし込む
これは「希望」や「未来」といった抽象的な話をするのではなく、今すぐできる小さな行動にフォーカスするという方向性です。例えて言えば、「私達は自由になるんだ!」という抽象的な言葉を伝えるのではなく「今日の食料を分け合えば、もう少し持ちこたえられるかもしれない。」と、身近で具体的な提案をするようなことです。
ときに人は不確実な希望よりも、「自分で状況を少しでも変えられる」という感覚のほうが大切になることもあるのです。
逆境を生き抜き、希望を手にした実例を語る
「こういう状況を乗り越えた人がいる」という夢物語ではない現実は、人々に現実的な希望を与えます。ただしこれは、無理に英雄的な人々の話をするのではなく、「自分と同じ立場の人が少しでも状況を改善した事例」が効果的である場合が多いかと思います。
自分自身の行動で示す
最後に、これは何よりも重要なことですが、人は言葉のみでは決して動きません。まず自分がやってみせることです。誰も動こうとしない中で、誰かが静かに準備を始めると、少しずつ周囲も動き出すことがあることは、多くの人がしばしば経験するところでしょう。
「絶望」も受け入れる
「希望を持てない人がいるのも仕方がない」と理解することも大切です。すべての人を変えようとせず、希望を持てる人だけでも行動を共にするのが現実的です。完璧主義が良い結果を生まないことも多々あります。
おわりに
否定的な意見を言う人を即座に敵と判断してしまうことは間違いであることは言うまでもありませんが、反対意見を述べる人の心と、その人が歩んできた人生に寄り添うことが大切です。私もそのような発信者でありたいと思っています。
最後までお読み頂きありがとうございました。