日本の漫画やアニメは、世界に誇る文化であり、優れた芸術性を持つ素晴らしい作品が数多く存在します。そのことは疑う余地がありません。
一方で、これらの作品が伝える「通俗道徳」の影響について、批判的に考える時期に来ているのではないかと私は考えます。
- 「どんなに苦しくても困難から逃げ出すな」
- 「努力なくして成功なし」
- 「他人のせいにするな!まず自分を見直せ!」
このような価値観が繰り返し、作品中で描かれることで、触れた者に特定の生き方や考え方が理想として刷り込まれる危険性もあるということです。
誤解していただきたくないのですが、私は決して「漫画の表現規制をすべき」などと主張したいわけではありません。ポリコレのゴリ押しや言葉狩り・表現規制は芸術を殺してしまうというのが私の考えです。漫画は世界に誇ることができる日本の文化であり芸術だと私は考えています。
今回の記事では、「通俗道徳」とはなにか。そして通俗道徳が私たちにどのような影響を与えるのか、そしてその影響とどう向き合っていくべきかについて私見を述べたいと思います。
通俗道徳とは?
「通俗道徳」とは、特定の法律や宗教の教義などに基づくものではなく、社会的に広く共有され、日常生活の中で自然と受け入れられている道徳観や価値観のことです。
日本社会における通俗道徳は以下のようなものが代表的です。
- 「他人に迷惑をかけない」
- 「空気を読む」
- 「秩序を保つ(和を乱さない)」
これらは特に法律などによって明文化されているわけではありませんが、多くの日本人にとって共通の行動指針となっており、これら指針から外れた行動を取った個人は、様々な攻撃を受けることになります。
これら通俗道徳の特徴は、個人よりも集団の調和を重視する点にあります。例えば、電車の中で静かにすることや、公共の場でゴミを持ち帰ることは、日本では当たり前とされる行動ですが、これも通俗道徳の一例です。このような価値観は、日本の歴史や文化に深く根ざしています。
通俗道徳と自己責任論
一方で通俗道徳には「自己責任」の概念も深く組み込まれています。個人が自らの行動やその結果に責任を持つことが強調されます。この「自己責任」の意識は、他人に迷惑をかけないためのルールとして機能する一方で、人権への配慮を欠いた社会的なプレッシャーや、困窮した人を「自己責任」として切り捨てる過剰な自己責任論につながる危険性を秘めたものです。
通俗道徳は日本社会における暗黙のルールであり、私たちの行動や人間関係を形作っています。しかし、その規範がどのように形成され、影響を与えているのかを考えることは、現代社会における道徳や価値観のあり方を問い直す上で重要なテーマと言えるでしょう。
漫画にみられる「通俗道徳」とは?

「通俗道徳」とは、一般的で簡単に理解できる道徳的な教訓を指します。例えば、困難を乗り越えて成功することや、自己改革を通じて人生が変わるというストーリーがこれに当たります。漫画やアニメでよく見られる、
- 「どんな困難にあっても決して逃げず強い心で乗り越える主人公」
- 「悪いことをしていた人物が反省し、善人に変わる」
- 「フラフラと目的もなく生きてきた人物が何らかのきっかけで『心を入れ替え』工事現場で働くラスト」
こうしたプロットは、この「通俗道徳」の典型的な例です。
これらのメッセージは、視聴者や読者に「どんな状況でも頑張れば報われる」という希望を与える一方で、現実的な問題解決や多様な選択肢を無視してしまう危険性も秘めています。例えば、過労やブラック企業に関する問題は、ただただ個人に我慢を強いたり、「努力を続けることが美徳」とされるストーリーで簡単に解決できるものではありません。
具体的な提案
「通俗道徳」の悪影響を抑えつつ、作品の自由な表現や芸術性を守るために、以下のアプローチを提案します。
1. 教育における批判的思考の育成
フィクション作品をそのまま受け取るのではなく、批判的に考える力を育てます。
読解・分析スキルの授業化
学校教育で漫画やアニメを題材に、登場人物の行動を議論する授業を導入。
例:「なぜ主人公はその選択をしたのか?他の選択肢はなかったのか?」といった問いを考察。
批判的読解の教材作成
漫画やアニメの影響を理解し、現実との違いを認識する教材を開発します。
2. 多様な価値観を提示する作品の創作と普及
特定の価値観に偏らない作品を増やし、読者が多様な視点を持てるよう支援します。
支援金や助成金の設立
通俗道徳や労働を賛美するような作品だけではなく、それらにとらわれない多様な価値観を描く作品を制作するクリエイターへの助成金制度を設ける。公共広告やイベントで、多様性を描いた作品を積極的に紹介するなども効果的ではないでしょうか。
3. フィクションの影響を研究する
通俗道徳がどのように受容されるかを科学的に解明する取り組みを推進します。
研究プロジェクトの支援・データの可視化
フィクションが若年層に与える影響を研究する大学や専門機関と連携。どの作品がどの層に影響を与えているかを統計データとして一般公開する。
4. 創作側への啓発活動
クリエイターが作品の影響を意識し、自由な表現の中で多様な価値観を描くことを促進します。
講演会やワークショップ
作家や制作者向けに、フィクションの社会的影響を学ぶ機会を提供。
ガイドライン作成
自由な創作を尊重しつつ、作品内で多様な価値観を表現するための参考資料を提供する。ただこれは創作における自由の剥奪と拘束と表裏一体であることは強く留意すべきです。
5. 社会全体での意識改革
読者や視聴者がフィクションが流布する通俗道徳の影響を自覚する社会を目指します。
おわりに
漫画やアニメは、単なる娯楽ではなく、価値観や倫理観の形成に大きな影響を与える文化的存在であり私たちの社会に欠かせない芸術です。「通俗道徳」が持つリスクを批判的に考えつつも、それをただ単に排除するのではなく、受け手が多様な選択肢を考えられる土壌を作ることが重要です。
最後までお読み頂きありがとうございました。