雇用のミスマッチは、現代日本の雇用システムが抱える深刻な課題のひとつです。
今回の記事では、この問題の背景や構造を掘り下げ、ベーシックインカム(以下、BI)がどのように雇用のミスマッチ問題を解決しうるのかを考えてみたいと思います。
雇用のミスマッチ問題とは?
「雇用のミスマッチ」とは、主に採用プロセスにおいて雇用者と被雇用者の双方が抱いた期待が、実際に働き始めて見た後で裏切られる現象を指します。具体的には次のようなケースが典型です。
雇用者側の例
- 「この人材は期待した能力や適性を備えていない」
- 「面接で話していた能力にはとうてい及ばないほど能力が低い人材だった」
被雇用者側の例
- 「職場環境が思っていたものと全く違う」
- 「配属された部署はブラックな労働環境だった」
こうしたミスマッチの多くは、日本の雇用システムが抱える構造的な問題に起因して起こるものです。
日本の雇用システムと「茶番劇」
日本の雇用システムにおいては、雇用者側・被雇用者側の双方が享受できる「お試し雇用期間」のような柔軟な雇用関係を前提とした仕組みが不足しています。その結果、次のような問題が発生します。
雇用者側の問題
雇用者は、自社の職場環境や業務内容の負の側面を隠そうとします。これはたとえば、いわゆる「お局様」に代表されるような特定の個人に権力が集中しており職場の雰囲気が極めて閉鎖的であるといった不都合のことを指します。
企業にとってこのような情報を選抜の段階で隠すことは、優秀な人材を確保するための戦略的な動きともいえる一方、結果的にミスマッチを助長する要因となっています。
被雇用者側の問題
被雇用者も、自身の弱点やネガティブな側面を隠し、採用選考を突破しようとします。明白な経歴詐称などはもちろん法的責任が生じますが、社会通念上そこまで重大と思われていない些細な事柄などについては被雇用者も雇用者側と同様に隠そうとする傾向があります。このような振る舞いは、結果的に双方にとって「茶番劇」と化してしまうのです。
情報非対称性の問題
採用時における「情報非対称性」の問題も、雇用のミスマッチを引き起こす重要な要因です。
情報非対称性とは、雇用者と被雇用者の間で持っている情報量やその正確性が異なる状態を指します。
情報非対称性の具体例
雇用者側
雇用者側は、被雇用者の過去の業績や本当のスキルセットを完全には把握できません。履歴書や面接でのアピールが過大評価されることも多々あります。「一発勝負・出たとこ勝負」で選抜をくぐり抜けられてしまうというわけです。
被雇用者側
被雇用者側は、企業の文化や実際の職場環境を十分に知る術がなく、ひどい場合では入社後に「ブラック企業」だったことに気づくケースもあります。
こうした情報ギャップが、採用プロセスにおける期待と現実のズレを生むのです。
日本社会と雇用保護の矛盾
こうしたことが起こってしまう背景には日本の司法事情が大きく関与しています。日本の司法は、被雇用者保護に強く傾いています。これは「路頭に迷う人を生み出さない」「そのために被雇用者の権利を守る」という社会的な配慮から来ていますが、逆に次のような弊害を生んでいます。
- 雇用者が慎重すぎる採用を行うようになり結果として被雇用者の機会が制限される。
- 一度雇用関係が成立すると、解雇・離職には大きなリスクが伴うため、労使双方ともに柔軟な動き方が阻害される。
ベーシックインカムがもたらす可能性
ベーシックインカム(以下、BI)を導入することで、こうした雇用のミスマッチ解消に次のようなメリットが期待できます。
お試し就業の実現
BIが生活基盤を支えることで、被雇用者は雇用に失敗してもすぐに生活に困窮することがなくなります。これにより、雇用者・被雇用者双方に「お試し期間」を設ける余地が生まれます。
情報非対称性のリスク軽減
BIがセーフティネットとして機能すれば、採用時の情報不足がもたらすリスクも減少します。被雇用者は無理に自分を偽る必要がなくなり、雇用者もよりリスクを取った採用が可能となるでしょう。
司法判断への影響
BIが普及してすべての人に生存が保証される社会になれば、日本の司法もこれを前提に柔軟な雇用関係を支持する方向にシフトする可能性があります。
現状の問題とBI導入の重要性
現状、BIが存在せず、すべての人の生存が保証されていない状況では、被雇用者は一度手にしたポストにしがみつかざるを得ません。この状態は、単に個人の問題にとどまらず、社会全体にとって大きな損失といえます。
なぜなら、雇用者と被雇用者双方がミスマッチに気づいても、そのまま関係を続けざるを得ない状況が続くからです。これにより、労働市場の柔軟性が失われ、企業も個人も成長の機会が奪われるといえます。
例えば、雇用者が実際には期待していない能力の従業員を雇い続けることで、他の優秀な人材にチャンスが回らない可能性があります。もちろん他の社員のモチベーション低下という深刻な問題も発生します。
さらに、被雇用者の側としても自分に合わない職場で無理に働き続けることによって、精神的・肉体的な負担が増し、最終的には生産性や業績にも悪影響を及ぼします。
課題と限界
ただし、BIだけで雇用のミスマッチ問題を完全に解決できるわけではありません。
以下のような追加的な改革が必要です。
採用プロセスの透明化
企業側の情報開示を促進し、被雇用者が職場の実態を正しく理解できるようにする。
雇用文化の変革
雇用者と被雇用者が率直に情報を共有できる信頼関係を構築する。
労働法の改正
雇用契約の柔軟性を高める法的枠組みを整備する。
おわりに
ベーシックインカム(BI)は、雇用のミスマッチ問題に対して有効な解決策のひとつです。特に生活の安定を提供し、柔軟な雇用関係を実現するという点で期待できます。
しかし、情報非対称性の問題や日本特有の雇用文化の課題を克服するためには、BIの導入だけでなく、雇用システム全体の改革が必要です。
これらを組み合わせた包括的なアプローチが、真に雇用のミスマッチを解消する鍵となるでしょう。
最後までお読み頂きありがとうございました。